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東京地方裁判所 昭和58年(ワ)10463号 判決 1987年12月04日

原告

栗原弘

右訴訟代理人弁護士

赤尾直人

右輔佐人弁理士

村田幹雄

渡辺喜平

被告

株式会社ミヨシ

右代表者代表取締役

三好清隆

右訴訟代理人弁護士

木下洋平

右輔佐人弁理士

祐川尉一

坂本栄一

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、別紙物件目録記載の防煙用仕切り壁(以下、「被告製品」という。)を製造し、販売し、又は販売のために展示してはならない。

2  被告はその本店、支店、営業所及び工場に占有する被告製品を廃棄せよ。

3  被告は原告に対し、金一〇四万五〇〇〇円及びこれに対する昭和五八年一〇月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

5  1ないし3項につき仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、防煙用仕切り壁の製造・販売を行つている金沢市増泉三丁目七番一号所在の株式会社栗原の代表取締役であり、被告は防煙用仕切り壁の製造・販売を行つている会社である。

2  原告は、理研軽金属工業株式会社とともに、次の三件の特許権(以下、「本件特許権①、②、③」といい、その発明を総称して「本件各発明」、また、各別に順次「本件発明①、②、③」という。)を共有している(共有持分二分の一)。

(一) 本件特許権①

特許番号 第一〇二三三三〇号

発明の名称 防煙用仕切り壁の取付け構造

出願日 昭和四八年七月一三日

公告日 昭和五五年四月一一日

登録日 昭和五五年一一月二八日

(二) 本件特許権②

特許番号 第一〇四七五二六号

発明の名称 防煙用仕切り壁の取付け構造

出願日 昭和四八年七月一三日

公告日 昭和五五年一〇月一六日

登録日 昭和五六年五月二八日

(三) 本件特許権③

特許番号 第一一四六三三五号

発明の名称 防煙用仕切り壁の取付け構造

出願日 昭和四八年七月一三日

公告日 昭和五五年一一月一四日

登録日 昭和五八年五月一二日

3  本件各発明の特許出願の願書に添付した明細書(以下、「本件各明細書」といい、各別に順次「本件明細書①、②、③」という。)の特許請求の範囲の記載は、次のとおりである(ただし、本件明細書③については、昭和五六年七月二九日付け手続補正書による補正後のもの。以下、本件各発明についての番号・記号は別添特許公報(以下、「本件各公報」といい、各別に順次「本件公報①、②、③」という。ただし、本件公報③については、別添手続補正書による補正後のもの。)のうち対応する公報記載のものを指す。)。

(一) 本件発明①

「天井下面に垂設されかつ仕切り壁の幅より大きい長さを有する支持ボルトを介して突き合わせ状に連続した二つの防煙用仕切り壁を挾持するために、前記支持ボルトの下端部に介装せしめた下部支持金具にて両仕切り壁の下縁を支承せしめるように構成したことを特徴とする防煙用仕切り壁の取付け構造。」

(二) 本件発明②

「支持ボルト1は防煙用の仕切り壁の幅を超える長さを有しかつその上端のねじ部により吊下可能に垂下され、この支持ボルト1の上部には断面コ字形の上部支持金具2を設け、同支持ボルト1の下端には同じく断面コ字形の下部支持金具3を嵌着し、さらに、前記支持ボルト1の側面に突き合わせ状に連続させた仕切り壁C、Cを前記上部支持金具2と前記下部支持金具3との間にて挾持するように構成したことを特徴とする防煙用仕切り壁の取付け構造。」

(三) 本件発明③

「支持ボルトを介して天井構造材に防煙用の仕切り壁を吊下するために、両仕切り壁の間に上部押え金具と下部支持金具とを介装して前記仕切り壁を突き合わせ状に連結せしめるとともに前記上部押え金具と前記下部支持金具とを前記支持ボルトとナットによつて締付けるように構成したことを特徴とする防煙用仕切り壁の取付け構造。」

4  本件各発明の構成要件は次のとおりである。

(一) 本件発明①

(1) 天井下面に仕切り壁の幅より大きい長さを有する支持ボルトを垂設すること。

(2) 支持ボルトを介して、突合せ状に連続した二つの防煙用仕切り壁を挾持するために、支持ボルトの下端部に介装せしめた下部支持金具に両仕切り壁の下縁を支承せしめること。

(二) 本件発明②

(1) 防煙用仕切り壁の幅を超える長さを有する支持ボルト1をその上端のねじ部により、吊下可能に垂下すること。

(2) 支持ボルト1の上部には、断面コ字形の上部支持金具2を設けること。

(3) 支持ボルト1の下端には、断面コ字形の下部支持金具3を嵌着すること。

(4) 支持ボルト1の側面に突合せ状に連続させた仕切り壁C、Cを上部支持金具2と下部支持金具3との間にて挾持すること。

(三) 本件発明③

(1) 支持ボルトを介して、天井構造材に防煙用仕切り壁を吊下すること。

(2) 両仕切り壁の間に上部押え金具と下部支持金具とを介装して仕切り壁を突合せ状に連続せしめること。

(3) 上部押え金具と下部支持金具とを支持ボルトとナットによつて締め付けること。

5  本件各発明は、前述の構成を採ることによつて、テンションに弱いガラス製の防煙用仕切り壁を下部支持金具等で支承し、仕切り壁自体にテンションによる引張り応力が生じるのを解消して、仕切り壁自体の破損事故を未然に防止するという作用効果を奏する。

6  被告は被告製品を製造販売している。

7  被告製品の構造は次のとおりである(以下、被告製品についての番号・記号は別紙物件目録記載のものを指す。)。

(1) 構造材Bから上部支持ボルト11を垂設している。

(2) 天井Aに挾まれる部位から天井Aの下面の部位において、横方向に連続した断面略コ字形の上部支持金具2を上部支持ボルト11の下端部に固着している。

(3) 上部支持金具2から仕切り壁Cの幅よりやや大きい長さを有する支持ボルト1をナット6aによつて垂設している。

(4) 支持ボルト1の下端には、断面コ字形の支持金具3をナット6aにより嵌着している。

(5) 支持ボルト1の曲面に仕切り壁C、Cを突合せ状に連続させ、該仕切り壁C、Cを上部支持金具2と下部支持金具3との間に挾持している。

(6) 仕切り壁C、Cと上部支持金具2との間にシール材Sを充填している。

8  本件各発明と被告製品とを対比すれば、次のとおりである。

(一) 本件発明①について

(1) 被告製品の構造(3)において、上部支持金具2は、天井面と同じ高さのレベル又はそれ以下の位置にあり、かつナット6aは天井面より下部にある以上、支持ボルト1は、天井下面に垂設されていることが明らかである。

また、被告製品においては、支持ボルト1は仕切り壁Cの幅よりやや大きい長さを有しているが、「やや大きい長さを有する」ことが「大きい長さを有する」ことに含まれる以上、被告製品の構造(3)は本件発明①の構成要件(1)に該当する。

(2) 被告製品の構造(4)の「嵌着」することとは、本件発明①の構成要件(2)の「介装」することに該当し、またこのような嵌着によつて、被告製品の構造(5)のように、支持金具3が上部支持金具2と相まつて仕切り壁C、Cを挾持するために必然的にC、Cの下縁を支承していることになる。そして、被告製品の構造(5)は本件発明①の構成要件(1)の「支持ボルトを介して……挾持する」部分に該当する以上、構造(4)、(5)を総合することによつて、本件発明①の構成要件(2)は充足される。

(二) 本件発明②について

(1) 被告製品の構造(3)において、支持ボルト1は自らのねじ部及びナット6aのねじ部によつて垂設される以上、右構造(3)は本件発明②の構成要件(1)に該当する。

(2) 被告製品の構造(3)において、上部支持金具2は、構造(6)記載のシール材Sを介して、仕切り壁C、Cの横への転倒を防止してこれを押えているものであり、また本件発明②の構成要件(2)における上部押え金具2も、断面コ字形とすることによつて、同一の作用を行うものである以上、被告製品の上部支持金具2は、右構成要件(2)の押え金具に該当し、さらに被告製品の支持ボルトが上部支持金具から垂設されることは、上部支持金具2が支持ボルト1の上部に設けられることを意味することになり、結局、被告製品の構造(3)、(6)を総合することによつて、本件発明②の構成要件(2)は充足される。

(3) 被告製品の構造(4)は、本件発明②の構成要件(2)、(3)に該当する。

(三) 本件発明③について

(1) 被告製品の構造(1)、(2)、(5)によれば、防煙用仕切り壁は、上部支持ボルト11、上部支持金具2、支持ボルト1、下部支持金具3によつて吊下される以上、支持ボルト1を介して天井構造材Bに防煙用仕切り壁を吊り下げることになり、結局これらの各要素を総合することによつて、本件発明③の構成要件(1)は充足される。

(2) 前記(二)(2)のとおり、被告製品の上部支持金具2は、構造(6)のシール材を介して、防煙用仕切り壁C、Cの後方向への転倒を防ぐ作用を行い、他方、本件発明③の上部押え金具も同一の作用を行うので、被告製品の上部支持金具2はこの上部押え金具に該当し、また仕切り壁C、Cを上部支持金具2と下部支持金具3との間で挾持し、これによつて仕切り壁C、Cを突合わせ状に連続させることは、上部支持金具2と下部支持金具3とを介装して仕切り壁C、Cを突合わせ状に連続させることにほかならない以上、被告製品の構造(4)、(6)を総合することによつて、本件発明③の構成要件(2)は充足される。

(3) 被告製品の構造(3)及び(4)において、上部支持金具2及び下部支持金具3は、ナット6a、6b及び支持ボルト1によつて締め付けられている以上、構造(3)、(4)を総合することによつて、本件発明③の構成要件(3)は充足される。

(四) 以上のとおり、被告製品は、本件各発明の構成要件をすべて充足するから、その技術的範囲に属するものである。

9  被告は、東京都及び広島県において、昭和五七年七月から同年一二月の間、一か月平均金三八〇〇万円の売上を得たところ、そのうち被告製品の割合は五五パーセントであつた。被告製品の利益率は売上額の五パーセントであるから、被告は、一か月当たり金一〇四万五〇〇〇円の利益を得、本件各特許権の持分二分の一の共有権者である原告は、右金額の二分の一の一か月当たり金五二万二五〇〇円の損害を被つたこととなる。

原告は右期間のうち二か月分の金一〇四万五〇〇〇円を損害として請求する。

10  よつて、原告は被告に対し、本件各特許権に基づく被告製品の製造販売等の差止め並びに本件各特許権侵害に基づく損害賠償の一部として金一〇四万五〇〇〇円及びこれに対する不法行為の後である昭和五八年一〇月三〇日から支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1ないし3の事実は認める。

2  同4、5の事実は否認する。

3  同6、7の事実は認める。

4  同8は争う。

5  同9の事実は否認する。

三  被告の主張

被告製品は、以下に述べるとおり、本件各発明の構成要件を充足しないから、その技術的範囲に属しない。

1  明細書の特許請求の範囲には、発明の構成に欠くことができない事項すなわち構成要件のすべてが記載されなければならず、その全部が記載されていないと認められるときは、その欠けている構成要件を補つてその発明の技術的範囲を認定すべきものである。右の見地から本件各発明について検討すれば、次のとおりである。

(一) 本件発明①について

(1) 本件明細書①の特許請求の範囲には、支持ボルトが単に「天井下面に垂設され」と記載されているだけである。しかし、この支持ボルトは、天井下面に宙に浮いたような状態で存在することはできないから、本件明細書①の発明の詳細な説明及び図面に開示されているとおり、天井構造材から垂設されることを当然の前提とするものである。したがつて、本件発明①の支持ボルトが垂設される部位については、「天井構造材から」という要件を補うことが必要である。

ところで、被告製品は、その支持ボルトが天井構造材からではなく、上部支持金具から垂設されているから、本件発明①の右構成要件を充足しない。

(2) 本件発明①にいう「挾持する」とは、「挾んで支持する又は挾んで持つ」という意味であるから、少なくとも二つの部材の存在を前提とする用語である。しかるに、本件明細書①の特許請求の範囲には、挾持するための部材として下部支持金具しか挙げられていないが、これは、明らかに発明の構成に不可欠の要件を記載していない場合に当たる。したがつて、本件発明①については、挾持するための部材として上部支持金具を補つて解釈することが必要である。また、本件発明①における支持ボルトは、それだけでは無意味な存在であり、組み合わされるナットがあつて初めて本来の締結機能を発揮するから、「ナット」も構成要件として当然補われるべきである。そうすると、本件発明①は、支持ボルトとナットで上下支持金具を締め付けることによつて仕切り壁を挾持するという構成であることになる。

これに対し、被告製品は、シール材によつて仕切り壁を上部支持金具に固定しており、ボルト・ナットで上下支持金具を締め付けて仕切り壁を挾持しているのではないから、本件発明①の右構成要件を充足しない。

(二) 本件発明②について

本件発明②の支持ボルトについても、本件発明①について述べたと同様の理由により、「天井構造材から垂下されている」との意味に解釈すべきである。また、本件発明②においても、前同様の理由により、「ナット」が必須の要件であり、支持ボルトとナットで上下支持金具を締め付けることによつて仕切り壁の挾持を行うという構成を採るものである。したがつて、被告製品は本件発明②の右構成要件をいずれも充足しない。

(三) 本件発明③について

本件発明③の支持ボルトについても、本件発明①について述べたと同様の理由により、「天井構造材から吊り下げられている」との意味に解釈すべきである。また、本件発明③については、上下支持金具が支持ボルトとナットによつて締め付けられる旨の要件が本件明細書①の特許請求の範囲に明記されている。したがつて、被告製品は本件発明③の右構成要件をいずれも充足しない。

2  明細書の特許請求の範囲に機能的、抽象的な記載がある場合、これに字義どおり含まれるもののすべてがその発明の技術的範囲に属すると解することはできない。特許権による保護は、技術の公開に対する代償として与えられるものだからである。機能的、抽象的に記載された特許請求の範囲の解釈に当たつては、発明の詳細な説明及び図面に具体的に開示された技術内容を参酌すべきである。右の見地から本件各発明について検討すれば、次のとおりである。

(一) 本件発明①について

本件明細書①の特許請求の範囲には、支持ボルトが「天井下面に垂設され」と抽象的、機能的に記載されているのみである。そして、本件明細書①の発明の詳細な説明及び図面には、支持ボルトが「天井下面に垂設され」る具体的構成として、天井構造材から垂設されるようにしたものが示されているだけである。したがつて、本件発明①において支持ボルトが「天井下面に垂設され」るというのは、支持ボルトが「天井構造材から垂設される」と限定的に解釈すべきである。

次に、本件明細書①の特許請求の範囲には、「二つの防煙用仕切り壁を挾持する」という、同じく機能的、抽象的な記載がある。そこで、発明の詳細な説明及び図面において右「挾持する」に対応する具体的構成をみると、仕切り壁の下縁を下部支持金具で支承するとともに、支持ボルトに遊嵌した上部押え金具をナットで仕切り壁に対して締め付けるという構成が示されているだけである。したがつて、本件発明①にいう「挾持する」とは、右の具体的構成と同じ意味に解釈しなければならない。

そして、被告製品が本件発明①の右各構成要件を充足しないことは、先に述べたとおりである。

(二) 本件発明②について

本件発明②においては、支持ボルトの取付けについて、「その上端のねじ部により吊下可能に垂下され」る旨の記載が用いられ、その吊り下げられる相手の部材については何ら記載がないが、右の構成要件は、本件発明①について述べたと同様の理由により、支持ボルトを「天井構造材から吊下可能に垂下する」との意味に解釈すべきである。また、本件発明②においても、仕切り壁を「挾持する」旨の機能的、抽象的記載が用いられているところ、本件明細書②には、右「挾持する」に対応する具体的構成として、本件発明①について述べたと同一の実施例が示されているにすぎないから、右「挾持する」の構成要件についても本件発明①の場合と同様に解釈すべきである。したがつて、被告製品は本件発明②の右各構成要件をいずれも充足しない。

(三) 本件発明③について

(1) 本件発明③の「支持ボルトを介して…吊下する」との構成要件についても、「天井構造材から垂下された支持ボルトを介して…吊下する」との意味に解すべきことは、本件発明①及び②の場合と同様であり、被告製品は、右構成要件を充足しない。

(2) 加えて、本件発明③の出願手続においては、特許異議の申立てがあり、これに対する答弁書が提出されているところ、右答弁書には、本件発明③の作用効果として、「支持ボルト(1)で上下の金具を直接締付けることができるので構成が簡単で、且つ仕切壁を確実に挾持できる。」等と述べられている。そして、本件発明③が右のような作用効果を奏するためには、同発明における「前記上部押え金具と前記下部支持金具とを前記支持ボルトとナットによつて締付ける」との構成は、上下の金具を締め付けることが直接仕切り壁を挾持することにつながるものでなければならない。したがつて、被告製品は本件発明③の右構成要件を充足しない。

3  本件各発明の技術的範囲を本件各明細書の特許請求の範囲の記載の字義どおりに解釈すると、「ガラス」昭和四七年八月号(乙第二号証の一ないし三)記載の製品における支持杆を、昭四七―二七七八六号実用新案公報(乙第五号証)記載の考案における支持ボルト及びナットによる支持に置き換えたにすぎないものを含むことになる。しかし、右のような置換をしたにすぎない技術が進歩性を欠き、特許を受けることができないものであることは、本件各発明の出願が分割される基礎となつた原出願(特許願昭五一―〇五五六七一号)の経過に照らして明らかである。したがつて、本件各発明の特許が有効であるとするためには、「支持ボルトの垂設」又は「挾持する」の構成要件について前述のような限定を加えて解釈する必要がある。

四  被告の主張に対する原告の反論

1  被告の主張1は争う。

(一) 本件発明①について

(1) 本件明細書①の特許請求の範囲における、支持ボルトが「天井下面に垂設され」との記載部分は、本件発明①の課題を解決した構成部分ではなく、当然の前提事項を表現したものであるにすぎないから、これをもつて発明の構成に不可欠の事項が記載されていないということはできない。仮に右の記載部分が単なる前提事項ではないとしても、本件発明①は、支持ボルトの垂設構造を解決課題とするものではない以上、この点に関する具体的構成は実施者の任意の設計に委ねているものである。したがつて、本件発明①の右構成要件について被告主張のような限定解釈を行う必要はない。

(2) 本件明細書①の特許請求の範囲において、「二つの防煙用仕切り壁を挾持するために」との記載をし、挾持する部材のうち、「下部支持金具」を具体的に摘示しながら、対応する部材を特定しなかつたのは、後者が本件発明①の解決課題とは無関係であるからである。そして、右「防煙用仕切り壁を挾持するために」との記載は、下部支持金具で「両仕切り壁を支承せしめる」ことの目的を表現したものであるにすぎない。仮に、右「防煙用仕切り壁を挾持するために」との記載が所定の目的を表現したものにとどまらないとしても、仕切り壁の上部支持機構が本件発明①の解決課題とは関係がない以上、この点に関する具体的構成は実施者の任意の設計に委ねられているものである。したがつて、本件発明①について、被告主張のように、「上部支持金具」を補つて解釈することは不要である。

(二) 本件発明②について

本件発明②において、支持ボルト1が「吊下可能に垂下され」というのは、同発明の当然の前提事項を摘示したにとどまる。仮にそうでないとしても、支持ボルト1の垂下される構成は本件発明②の解決課題ではないから、その具体的構成いかんは実施者の任意の設計に委ねられているものである。

また、本来断面コ字形の上下支持金具の間に仕切り壁を挾ませれば、たとえ上部支持金具が仕切り壁を上から締め付けるのでなくても、仕切り壁は安定した状態で支持されることが力学上自明である。逆に、上部支持金具が断面コ字形でなく、単にナットによつて仕切り壁を締め付けただけであるならば、仕切り壁は上部支持金具から少しずれただけで横転してしまうのであつて、このことからも明らかなように、ナットで締め付けることは、「挾持する」ことの不可欠の要件ではないのである。

したがつて、本件発明②について被告主張のような限定解釈をすべき必然性はない。

(三) 本件発明③について

本件発明③について、天井構造材と支持ボルトとの結合関係を被告主張のように限定解釈すべき根拠はない。その理由は、本件発明①について述べたと同様である。

また、ナットを支持ボルトの下部に設け、しかも、上部押え金具を天井構造材に接する状態にするならば、ナットによつて上下の金具を下方から締め付けることが可能であり、この場合も本件発明③にいう「上部押え金具と前記下部支持金具とを前記支持ボルトとナットによつて締付ける」との構成要件に該当するから、右の構成要件は必ずしも本件発明③の実施例のような構成に限られない。むしろ、右「締付ける」の要件は、ナットの機能からすれば、仕切り壁の動きを規制するとの趣旨に解すべきであるから、この点に関する被告の限定解釈の主張も根拠がない。

2  被告の主張2は争う。

(一) 本件発明①について

本件発明①における、支持ボルトが「天井下面に垂設され」との構成部分は、前述のとおり、単なる前提事項であるか、又は少なくともその具体的構成いかんが実施者の任意の設計に委ねられているものである。したがつて、右のような表現をもつて、機能的、抽象的というのは当たらない。

また、本件発明①における「防煙用仕切り壁を挾持するために」との部分は、前述のとおり、いかなる目的で「両仕切り壁の下縁を支承せしめる」かを明らかにしたにとどまるものであるか、又はその具体的構成が実施者の任意の設計に委ねられているものである。したがつて、右「挾持する」との表現を機能的、抽象的であるとする被告の主張も失当である。

(二) 本件発明②について

本件発明②において、支持ボルト1が「吊下可能に垂下され」ることは、単なる前提事項にとどまるか、又はその具体的構成が実施者の任意の設計に委ねられているものであることは、本件発明①について述べたと同様である。したがつて、右「吊下可能に垂下され」との部分を機能的、抽象的であるとする被告の主張は、当たらない。

次に、本件発明②において、上部支持金具をナットによつて締め付けることは、仕切り壁を「挾持する」ために不可欠の要件ではない。本件発明②における仕切り壁の挾持に関する構成は、必要かつ十分に表現されており、これを機能的、抽象的であるとする被告の主張は失当である。

(三) 本件発明③について

(1) 本件発明③における「支持ボルトを介して天井構造材に防煙用の仕切り壁を吊下する」との部分は、本件発明①及び②について述べたと同様に、当然の前提事項であるか、又はその具体的構成が実施者の任意の設計に委ねられているものであるから、これを機能的、抽象的であるとする被告の主張は、失当である。

(2) 前述のとおり、ナットを支持ボルトの下部に設け、しかも、上部押え金具を天井構造材に接する状態にすれば、ナットによつて上下の金具を下方から締め付けることが可能であり、これも本件発明③における、仕切り壁を「締付ける」構成に該当する。したがつて、本件発明③において「ナット」を使用することの趣旨を、単に実施例と同様に、上からの締付けに限定解釈すべき旨の被告の主張は理由がない。

3  被告の主張3も争う。

被告の援用する乙第二号証の一ないし三には、支持杆並びに上部支持具及び下部支持具を用いて仕切り壁を保持する構成が示され、同じく乙第五号証には、ボルトを介して二つの部材の間に窓ガラスを挾持する構成が示されているが、そのいずれにおいても、支持ボルトを介して仕切り壁を突合せ状に連続させ、美的効果を得るという技術思想は全く見当たらない。したがつて、乙第二号証の支持杆に代えて乙第五号証の支持ボルトを使用するという置換は、当業者が容易に想到し得るものではなく、この点に関する被告の主張は理由がない。

第三  証拠<省略>

理由

一当事者の地位に関する請求の原因1の事実、本件特許権①ないし③の帰属に関する同2の事実及び本件各明細書の特許請求の範囲の記載に関する同3の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二右争いのない請求の原因3の事実と<証拠>とを合わせ考えれば、本件各発明は、それぞれ原告主張の各構成要件のほか、「防煙用仕切り壁の取付け構造であること」との構成要件を付加したものからなることが認められる。

三被告製品の製造販売に関する請求の原因6の事実も当事者間に争いがない。

四そこで、被告製品が本件各発明の技術的範囲に属するか否かについて、順次判断する。

1  本件発明①との対比

(一)  前記争いのない請求の原因3(一)の事実のとおり、本件明細書①の特許請求の範囲には、「支持ボルトを介して突き合わせ状に連続した二つの防煙用仕切り壁を挾持するために、前記支持ボルトの下端部に介装せしめた下部支持金具にて両仕切り壁の下縁を支承せしめるように構成した」旨、本件発明①の構成要件(2)に相当する記載部分がある。このうち、前段部分すなわち「……挾持するために」の部分は、後段部分に対する目的を規定したものであることが文理上明らかであるが、同時にそれ自体としても、本件発明①の構成を規定したものといわなければならない。けだし、明細書の特許請求の範囲には、発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているはずだからである。

ところで、「挾持する」とは、一般に、「挾み持つ」ないし「挾んで支持する」という意味に解される。したがつて、挾持するためには少なくとも二つの部材が必要であると考えられるところ、本件明細書①の特許請求の範囲には、仕切り壁を挾持するための部材として、「下部支持金具」を挙げ、これによつて仕切り壁の下縁を支承させるという構成を示しているにとどまり、下部支持金具に対応する部材やこれによる仕切り壁上縁の支持機構については、特に触れるところがない。

このように、機能的な記載のみがあつて、その機能を達成するための構成が明らかにされていない特許請求の範囲の記載については、これだけでその発明の技術的範囲を明らかにすることはできないから、明細書中の発明の詳細な説明欄の記載を参酌したうえでその構成を明らかにする必要がある。

(二)  <証拠>によれば、本件明細書①の発明の詳細な説明及び図面には、本件発明①の実施例として、支持ボルト1に遊嵌した上部押え金具2と、支持ボルト1の下端に固定された下部支持金具3との間に仕切り壁Cを挾み、上部押え金具2の上部からナット6を締め付けることによつて、仕切り壁Cを上部押え金具2と下部支持金具3とで上下から締め付けて支持する、という構成が示されていること(本件公報①二欄二四行目から三欄八行目まで及び第一ないし第三図参照)、しかし、仕切り壁の挾持に関する右以外の構成については、明示的な記載はもとより、示唆もないことが認められる。

(三) 右(一)、(二)で検討したところを総合すれば、本件発明①の構成要件(2)は、必ずしも先に認定した実施例と同一の構成に限られるものではないが、少なくとも、下部支持金具に対応する上部支持部材(右実施例においては上部押え金具2)を備え、この上部支持部材の上部又は下部支持金具の下部の一方又は双方に、支持ボルトと螺合するナットを設け、このナットで上部支持部材を下方へ、下部支持金具を上方へそれぞれ進ませるように締め付け、これによつてこの上下部材間に介在させた仕切り壁を間接的に上下から締め付けて支持する、という構成であると認めるのが相当である。

以上の説示に反する原告の主張は採用しない。

(四)  一方、被告製品の構造を示すものとして前記のとおり当事者間に争いのない別紙物件目録の記載によれば、被告製品においては、ナット6aに螺合されて支持された支持ボルト1がナット6aとともに上部支持金具2内を移動可能であり、所定の位置でナット6aに対し支持ボルト1を回転することによつて、支持ボルト1を上部支持金具2に固定することはできるものの、支持ボルト1とナット6aによつて上部支持金具2を締め付けて仕切り壁Cに対し上から締付け力を及ぼすことはできず、下部支持金具も単に下から仕切り壁Cを支持するだけのものであることが明らかである。

(五)  したがつて、被告製品は右(四)のように解釈されるべき本件発明①の構成要件(2)を充足しないから、その余の点について検討するまでもなく、本件発明①の技術的範囲に属しない。

2  本件発明②との対比

(一)  本件発明②の構成要件(4)は、前記のとおり、「支持ボルト1の側面に突合せ状に連続させた仕切り壁C、Cを上部支持金具2と下部支持金具3との間にて挾持すること」というものであるが、挾持するための一方の部材を「上部支持金具2」と明示したほかは、本件発明①の前記構成要件(2)と実質上同一とみることができる。また、<証拠>によれば、本件明細書①と本件明細書②とは、実施例が共通であるうえ、殆ど同一の開示内容を有することが認められる。

したがつて、本件発明①につき前記1(二)、(三)で判示したのと同様の理由により、本件発明②の構成要件(4)についても、支持ボルト1とこれに螺合するナットで上部押え金具2を下方へ、下部支持金具3を上方へそれぞれ進ませるように締め付け、これによつてこの上下金具の間に介在させた仕切り壁を上下から締め付けて支持する、という内容のものと解釈すべきである。

(二)  前記1(四)のとおり、被告製品は、支持ボルト1とナット6aとによつて上部支持金具2と下部支持金具3とを締め付け、これによつて仕切り壁Cを締め付けて支持するという構成になつていないから、右構成要件(4)を充足しない。

したがつて、その余の点について検討するまでもなく、被告製品は本件発明②の技術的範囲に属しない。

3  本件発明③との対比

(一) 本件発明③の構成要件(3)は、前記のとおり、「上部押え金具と下部支持金具とを支持ボルトとナットによつて締め付けること」というものであつて、それ自体としてもかなり具体的かつ明確である。

また、<証拠>によれば、本件明細書③には、本件明細書①記載の前記実施例と同一の実施例が掲げられ、しかも、その発明の詳細な説明の欄には、本件発明③の実施例ではなく、本件発明③自体の作用効果につき、「上部押え金具と下部支持金具とを支持ボルトとナットによつて締付ける構成であるので、仕切り壁を確実に締付けることができ、」との記載(本件公報③四欄一九行目と二〇行目との間に加入された説明文の一部)があることが認められる。

(二) 更に、<証拠>によれば、原告は、本件発明③の出願公告後に申し立てられた特許異議に対する答弁書において、特許請求の範囲を別添手続補正書のように補正する旨主張するとともに、その補正後の構成による作用効果として、(a) 支持ボルト1で上下の金具を直接締め付けることができるので、構成が簡単で、かつ仕切り壁を確実に挾持できること、(b) 上部押え金具2と下部支持金具3の間隔を変えることができるので、仕切り壁の高さの誤差に対応できること、(c) 上部押え金具2と下部支持金具3とを弛めるだけでも仕切り壁の取替えができること、等の特長がある旨述べていることが認められる。

右の見解もまた、本件発明③の構成が、支持ボルトが上下の金具を直接締め付け、このことによつて上下の金具の間に介在させた仕切り壁を締め付けて挾持する、というものであることを明らかにしたものというべきである。

(三) そうすると、本件発明③の構成要件(3)も、本件発明①の構成要件(2)と同様に、支持ボルトとこれに螺合するナットで上部押え金具を下方へ、下部支持金具を上方へそれぞれ進ませるように締め付け、これによつてこの上下の金具の間に介在させた仕切り壁を上下から締め付けて支持する、という内容のものとして解釈すべきことが明らかである。

(四)  前記1(四)のとおり、被告製品は、支持ボルト1とナット6aとによつて上下の金具2、3を締め付け、これによつて仕切り壁Cを締め付けて支持するという構成になつていないから、右構成要件(3)を充足しない。

したがつて、その余の点について検討するまでもなく、被告製品は本件発明③の技術的範囲に属しない。

三以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官安倉孝弘 裁判官小林正 裁判官若林辰繁)

別紙物件目録

次のとおりの防煙用仕切り壁

一 図面の説明

第一図は正面図、第二図は側面図、第三図は全体斜視図である。

二 構造の説明

構造材Bから上部支持ボルト11を垂設し、天井Aに挾まれる部位から天井Aの下面の部位において、横方向に連続した断面略コ字型の上部支持金具2を上部支持ボルト11の下端部に固着し、上部支持金具2から仕切り壁Cの幅よりやや大きい長さを有する支持ボルト1をナット6aにより垂設し、支持ボルト1の下端には、断面コ字形の支持金具3をナット6bにより嵌着し、支持ボルト1の側面に、仕切り壁CCを突合せ状に連続させると共に、該仕切り壁CCを上部支持金具2と下部支持金具3との間に挾持し、該仕切り壁CCと上部支持金具2の間に、シール材Sを充填したことを特徴とする防煙用仕切り壁の取付け構造。

別紙特許公報<省略>

別紙手続補正書<省略>

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